5年ルールから10年ルールへ。何が問題で、どう備えるか?
「iDeCoは節税になるから、とりあえず満額やっておけば安心」
そう思っている方は、2026年の税制改正を一度ちゃんと押さえておいた方が安全です。
2026年1月から、iDeCoや企業型DCなどを“一時金”で受け取るときの税金ルール(退職所得控除の扱い)が大きく変わるからです。
キーワードは「5年ルール → 10年ルール」。
老後の“出口戦略”を間違えると、数十万〜数百万円レベルで税金が増えるケースもあり得ると言われています。
このコラムでは、
そもそも何がどう変わるのか
誰が影響を受けやすいのか
どんな考え方で備えればいいのか
を、できるだけシンプルに整理していきます。
iDeCoは、受け取り方によって税金の扱いが変わります。
一時金でもらう → 「退職所得」として課税
退職所得控除 + 1/2課税が使える
年金のように分割でもらう → 「雑所得(公的年金等)」として課税
公的年金等控除の対象
このうち今回問題になるのが、一時金で受け取る場合の“退職所得控除”のルールです。
退職所得控除は、勤続年数やiDeCo加入年数に応じて
「この金額までは税金をかけませんよ」という枠をくれる制度。
退職金だけでなく、iDeCoや企業型DCの一時金にも使えます。
今までは、こんな“裏ワザ的”な使い方が可能でした。
60歳で iDeCo を一時金でもらう
65歳で 会社の退職金を一時金でもらう
この場合、受取の間隔が5年以上空いていれば、
iDeCo と退職金それぞれに別々の退職所得控除をフル適用できたのです。
この
「5年以上あければ、退職所得控除を2回フル活用できる」
という考え方が、いわゆる「5年ルール」です。
iDeCoや企業型DCを早めに受け取り、数年後に退職金を受け取ることで、トータルの税金を大きく抑えるテクニックとして紹介されてきました。
2026年1月1日以降に支払われる退職一時金から、このルールが変わります。
調整期間が
「5年」 → 「10年(実務的には“9年以内”)」 に延長
iDeCoや企業型DCの一時金を先に受け取り、その10年以内に退職金を一時金で受け取ると、
退職所得控除が“通算”されてしまい、控除額が圧縮される
つまり、
60歳:iDeCo一時金
65歳:退職金一時金
という、これまで “きれいに節税できる黄金パターン” とされてきた並びが、
2026年以降は控除調整の対象になる可能性が高い、ということです。
税理士の試算でも、受け取り方次第では数十万〜数百万円規模で税額が増えるケースがあり得るとされています。
特に影響を受けやすいのは、こんな人たちです。
退職金がそこそこ大きい会社員・公務員
かつ、iDeCo or 企業型DCにも加入している
定年年齢が60〜65歳前後
退職金もiDeCoも「一時金で受け取るつもりだった」
このような方は、
「iDeCoを早めにもらって、
数年後に退職金をもらえば控除2回使えるでしょ?」
という従来のセオリーが、2026年以降はそのままでは通用しにくくなる可能性が高いです。
一方で、
退職金がそもそも小さい
iDeCoは年金で受け取るつもり
定年が遅く、退職金とiDeCoの受取時期が自然と大きくずれる
といった方は、影響が限定的なこともあります。
細かい損得は個々の勤続年数・退職金額・iDeCo残高などで全く違いますが、
考え方の方向性としては、だいたい次の3つです。
例:
60歳:iDeCo一時金
70歳:退職金一時金
この場合は、改正後もそれぞれに退職所得控除をフル適用できるとされています。
ただし現実問題として、
定年のタイミング
再雇用制度の有無・規程
によっては、退職金受取を10年以上ずらすのは難しい人も多いでしょう。
iDeCoや企業型DCは、
一時金だけでなく「年金形式」または「一時金+年金の併用」も選べます。
年金として受け取る場合は「退職所得」ではなく「雑所得(公的年金等)」扱いになるため、
退職所得控除の10年ルールの影響を受けません。
その代わり、
公的年金等控除の範囲内であれば有利
年金額が大きくなると課税対象になる
など、別の計算ロジックになります。
これから iDeCo を始める/増額する人ほど重要なのが、
「将来、退職金とどう組み合わせて受け取るか?」
を今の段階でなんとなくでも決めておくことです。
退職金が厚い人
→ iDeCoは「年金受取前提」で、掛金も控えめに
退職金が少ない人
→ iDeCoをしっかり使って、一部は一時金・一部は年金の併用など
2027年以降は、iDeCoの掛金上限が大幅に引き上げられる見込みで、
企業年金のある会社員や公務員でも月6.2万円まで拠出可能になる方向です。
掛金枠が増える分、「出口設計」を考えずに満額積み上げると、
**受け取り時の税金で“逆サプライズ”**が起きかねません。
2026年の10年ルールだけ見ると“改悪”に見えますが、
iDeCo全体としては拡充方向の改正も同時進行中です。
代表的なものがこちら:
受給開始年齢の上限が70歳 → 75歳に拡大(2022年施行)
加入可能年齢が60歳未満 → 65歳未満(さらに70歳未満へ拡大する方針)
2027年から掛金上限が大幅アップ(特に会社員・公務員)
つまり国としては、
「長く働く時代だから、iDeCoをもっと使って老後資金を作ってください。ただし退職金との“二重においしい取り方”は公平性の観点から調整します。」
というバランスに寄せていると考えられます。
2026年の改正で、
iDeCoは「入るときがお得」な制度から、
「出るときまで含めて設計しないと危ない」制度に変わりつつあります。
これから iDeCo をどうするか考える時に、
最低限チェックしておきたいのは次の4つです。
自分の会社の退職金制度・企業型DCの有無
想定される退職金の金額感と定年(退職)年齢
iDeCoを一時金・年金・併用どれで受け取るイメージか
退職金と iDeCo の受取時期が何年くらい空きそうか
この4つがざっくり見えてくると、
10年ルールの影響がどれくらいありそうか
掛金を増やしていいのか、控えた方がいいのか
投資信託や不動産など、ほかの資産とどう組み合わせるか
が、かなりクリアになってきます。
2026年1月から、iDeCo等の一時金と退職金の「5年ルール」が「10年ルール」に変更
これにより、10年以内に両方を一時金で受け取ると退職所得控除が圧縮され、税負担増のリスク
特に、退職金が大きく iDeCo も加入している会社員・公務員は“出口戦略”の見直しが必須
一方で、掛金上限の拡大・加入年齢の拡大・受給開始年齢の拡大など、プラスの改正も多数あり
これからは「とりあえず満額」ではなく、退職金との組み合わせを前提にした設計が大切
なお、実際の税額や最も有利な受け取り方は、
勤続年数・退職金・iDeCo残高・家族構成などで大きく変わります。
最終判断は必ず税理士など専門家に確認したうえで、
「自分にとってのベストな出口」を早めに描いておくことをおすすめします。