2026年、日本の金利情勢は大きな転換点を迎えています。長らく続いたゼロ金利・マイナス金利時代が終焉し、住宅ローンや不動産投資ローンの指標となる短期金利にも上昇の兆しが見え始めました。こうした中、変動金利を選択している、あるいは検討している方々にとって、最大の懸念は「金利が上がった瞬間に返済額が跳ね上がり、家計が破綻するのではないか」という点です。
しかし、日本の多くの銀行が採用している変動金利には、利用者を急激な負担増から守るための強力な「安全装置」が備わっています。それが「5年ルール」と、セットで語られる「125%ルール」です。本コラムでは、この制度の仕組みからメリット、そして知っておくべき潜在的リスクまでを徹底的に解説します。
「5年ルール」とは、たとえ世の中の金利(指標金利)が上昇したとしても、**「5年間は毎月の返済額を据え置く」**という契約上の取り決めです。
通常、変動金利は半年に一度、適用金利の見直しが行われます。しかし、金利が上がるたびに毎月の返済額が変わってしまうと、家計の資金繰りは非常に不安定になります。これを防ぐため、多くの銀行では「金利が変わっても、5年間は銀行側で調整を行い、債務者が支払う月額は固定する」という措置をとっています。
ここで重要なのは、「返済額が変わらない=利息が増えない」ではないという点です。返済額(例:16万円)は一定に保たれますが、その中身(内訳)が変化します。
金利上昇時: 16万円のうち「利息」の占める割合が増え、「元金」の返済に回る分が減ります。
家計への影響: 毎月の通帳から引き落とされる金額は変わらないため、短期的には生活水準を維持することが可能です。
5年が経過すると、ついに返済額の見直しが行われます。ここで登場するのが「125%ルール」です。これは、**「新しい返済額は、直前の返済額の1.25倍を上限とする」**というものです。
例えば、月々10万円の返済をしていた場合、5年後の見直しタイミングでどんなに激しく金利が高騰していたとしても、新しい返済額は12.5万円が上限となります。一気に15万円、20万円と跳ね上がることはありません。
このルールの目的は、家計に「急激なショックを与えないこと」にあります。収入の伸びや貯蓄のペースを考慮し、現実的に対応可能な範囲に増額を抑えることで、デフォルト(債務不履行)を回避する設計になっているのです。
「5年ルール」と「125%ルール」は非常に強力な守りですが、魔法ではありません。注意しなければならないのが「未払利息(みはらいりそく)」の存在です。
もし金利が爆発的に上昇し、計算上の利息額が「毎月の返済額(据え置き分)」を上回ってしまった場合、その差額は「払いきれなかった利息」として積み上がっていきます。
未払利息のゆくえ: これらは免除されるわけではありません。基本的には、ローンの最終回(35年後など)に一括して支払うか、物件を売却して精算する際に支払う必要があります。
2026年現在の視点: 幸い、日本の金利上昇は緩やかであると予測されており、未払利息が発生するほどの急激な変動(例:半年で金利が数%上がるなど)は現実的とは言えませんが、知識として持っておくことは重要です。
このルールを正しく理解していれば、金利上昇を過度に恐れる必要はありません。むしろ、この「猶予期間」を武器に変えるのがプロの戦略です。
変動金利を選び、固定金利との差額(例えば月2万円)を銀行に払わずに済んでいる間、そのお金を「金利上昇対策用」として貯蓄や投資に回します。5年ルールがあるおかげで、金利が上がっても5年間は「同じ返済額」で済みます。その間に貯まったキャッシュを使い、見直しのタイミングで「繰り上げ返済」を行えば、借入元金を直接減らすことができ、金利上昇の影響を最小限に抑え込めます。
不動産投資であれば、金利上昇は往々にしてインフレ(物価上昇)を伴います。5年ルールで支出が固定されている間に、管理状態を良くして「賃料」を上げる努力をすれば、キャッシュフローは逆に改善する可能性さえあります。賃料が3,000円上がれば資産価値は約100万円向上する という原則を、この猶予期間中に実行に移すのです。
「変動金利は怖い」という言葉の多くは、こうしたルールを知らないことによる漠然とした不安から来ています。
5年ルールと125%ルールは、私たちに「時間」という最も貴重なリソースを与えてくれます。
急激な負担増による生活破綻を避ける時間
家計や投資戦略を再構築する時間
資産を売却して利益を確定させる(出口戦略)を見極める時間
2026年の金利上昇局面において、このルールを正しく使いこなし、低い金利メリットを最大限に享受しながら、手元に現金を残す。これこそが、数字に強い会社員が選ぶべき合理的な選択です。