日本の年金制度は、静かに、しかし確実に転換点を迎えています。
「将来もらえる年金はいくらか」という問いから、「働き方・稼ぎ方・備え方をどう設計するか」へ。
本コラムでは、今後数年で予定されている年金制度の主要改正を整理し、それが現役世代・高所得層・これから資産形成を考える人に
どのような影響を及ぼすのかを解説します。
在職老齢年金とは、年金を受給しながら働く人の収入に応じて、年金が減額される制度です。
これまで多くの人が、「働きすぎると年金が減る」「定年後は収入を抑えた方が得」というジレンマを抱えてきました。
2026年4月以降は、この在職老齢年金の基準額(減額が始まるライン)が引き上げられる予定です。
これまでより多く働いても年金が減りにくくなる
高齢期の就労意欲を阻害しにくくなる
専門職・管理職・再雇用層にとって追い風
制度が「改善」される一方で、「年金+給与」で生活が完結する前提がより強まるとも言えます。つまり、国は「長く働いてもらう」方向に舵を切っているというメッセージでもあります。
次に影響が大きいのが、厚生年金の標準報酬月額の上限引き上げです。標準報酬月額とは、厚生年金保険料を計算するための基準となる報酬額。現在も上限は存在しますが、2027年以降、この上限が引き上げられる予定です。
高所得者ほど社会保険料の負担が増える
手取り収入は目に見えて減る
会社員である限り、回避はできない
「払う分、将来の年金も増えるのでは?」という声もありますが、実際には
増加分と負担増は必ずしも比例しない
受給開始年齢・寿命次第で回収不能の可能性
つまり、確実に今の手取りは減るが、将来のリターンは不確実という性質を持っています。
2028年4月からは、遺族年金における男女差の解消が予定されています。
これまでの制度は、
専業主婦モデル
男性が稼ぎ、女性が支える
という前提で設計されてきました。しかし現代では、
共働き世帯が主流
女性の就労率上昇
家族構成の多様化
が進んでいます。
男女で異なっていた支給要件の是正
性別によらない制度設計へ
平等化は進む一方で、「手厚い保障」が薄まるケースも出てきます。つまり、制度は「守ってくれるもの」から「最低限を支えるもの」へという変化が進んでいるのです。
公的年金の調整が進む一方で、私的年金制度であるiDeCoの拡充が続いています。これは偶然ではありません。
老後資金は「自己責任」の比重が増す
国は税制優遇で“自助努力”を促す
公的年金だけでは足りない前提
拡充の方向性としては、
加入年齢の引き上げ
拠出限度額の見直し
会社員の使いやすさ改善
などが想定されています。
iDeCoは優れた制度ですが、
原則60歳まで引き出せない
インフレ耐性は商品次第
取り崩し時の税制も考慮が必要
つまり、iDeCoは「軸」にはなるが「答え」ではないという位置づけです。
4つの改正を並べてみると、国の一貫したメッセージが浮かび上がります。
長く働いてもらう
高所得層にはより多く負担してもらう
家族モデルは多様化前提
老後は自分でも備えてほしい
言い換えると、制度に「依存」する時代から、制度を「理解して使う」時代へ移行しているのです。
重要なのは、「制度改正を嘆くこと」ではありません。
手取りが減る前提でどう動くか
公的年金に何を期待し、何を期待しないか
私的年金・資産形成をどう組み合わせるか
これを早い段階で設計することです。
特に、
高所得会社員
医師・士業・専門職
共働き世帯
ほど、影響は大きくなります。
今回の年金制度改正は、どれも単体で見れば「調整」に見えるかもしれません。
しかし積み重ねると、老後の前提条件そのものが変わっていることがわかります。
働き方
稼ぎ方
守り方
これらを制度ベースで理解し、自分の人生設計に落とし込めるかが、今後の安心度を大きく左右します。年金制度は「知らなくても自動で守ってくれるもの」ではありません。理解し、備え、使いこなすものへと変わっています。