「勤務医の『働き損』を科学する ― 年収1,200万円を超えたら考えるべき税率の壁と防衛策」
勤務医の「働き損」を科学する
――年収1,200万円を超えたら考えるべき“税率の壁”と防衛策
「頑張って働いて年収が上がったのに、手取りが思ったほど増えない」。年収1,200万円前後から、こうした実感を持つ勤務医は少なくありません。これは気合や節約の問題ではなく、税と社会保険の構造がそう感じさせる局面に入っているからです。

1)まず確認:「働き損」は“錯覚”でもあり“現実”でもある
所得税は超過累進税率なので、「年収が上がったら全部に高い税率がかかる」わけではありません。上がった分にだけ高い税率がかかります。所得税率は課税所得が 9,000,000円を超えると33%の帯に入ります。
一方で、勤務医が体感する「働き損」は、主に次の合算で起きます。
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所得税(5〜45%の累進)
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住民税(原則:所得割10%+均等割など)
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復興特別所得税(所得税額の2.1%上乗せ)
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社会保険料(厚生年金・健康保険など):ここが“手取り感”を強く削る
つまり、課税所得が9,000,000円付近に近づくと、(所得税33%+住民税10%+復興税)で、増えた分の取り分が一気に薄く感じられます。
2)年収1,200万円ラインで“壁”が出やすい理由
年収1,200万円は「給与収入」です。ここから給与所得控除、基礎控除、社保控除などが引かれ「課税所得」に変換されます。家族構成や控除の有無でブレますが、課税所得が9,000,000円前後に近づきやすい帯なのがこのあたり。結果として「税率の壁」を踏みやすいのです。
さらに社会保険は、一定のところまで増えると増加が緩やかになりますが、標準報酬月額の上限など制度上の仕組みも絡み、給与明細の“控除総額”が大きく見えやすい。厚生年金は標準報酬月額に上限(現行65万円)がある、という考え方が示されています。
3)防衛策の基本方針:「税率を下げる」より「取り分を増やす」
勤務医の節税は、派手な裏技よりも、再現性の高い順に積むのが正解です。
防衛策①:iDeCo(確定拠出年金)を“満額まで”使う
iDeCoは拠出額が所得控除になり、運用益も非課税枠で積み上がります。税率の高いゾーンほど、同じ掛金でも“戻り”が大きい。
「節税=得した気分」ではなく、税率が高い時期に控除を取りに行き、受け取り方まで設計して実効税率を下げる、という発想が重要です。
防衛策②:NISAは“攻め”ではなく、課税口座の代替
NISAは所得控除ではありませんが、運用益が非課税。勤務医にとっては「忙しくても続けやすい」王道です。
iDeCo(控除)×NISA(運用益非課税)で、税金が高い現役期と、資産が必要な老後の両方に効く組み方になります。
防衛策③:医療費控除・生命保険料控除など「取りこぼし」を潰す
正直、年収1,200万円層だと、これらの控除だけで人生が変わるほどのインパクトは出にくいです。
ただし「取りこぼし」は毎年確実に損になります。医療費控除・寄附金控除など、申告すれば戻るものは戻す。住民税は所得割10%で計算されるため、控除の影響は住民税側にも出ます。
防衛策④:不動産(投資マンション)は“節税”より「設計の自由度」を買う
ここが誤解されやすい点です。不動産は「持てば節税」ではありません。空室・家賃下落・金利上昇・売却価格といったリスクを抱えます。
一方で、給与所得だけだとコントロールしづらい「課税所得」を、**経費・減価償却・損益通算(条件による)**などで“設計”できる余地があるのも事実。重要なのは、
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どの年に控除が出る設計か
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最悪ケース(月の持ち出し)でも家計が崩れないか
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出口(いつ・いくらで・何が起きたら売るか)を先に決める
この3点が揃わないなら、節税目的で入るべきではありません。逆に言えば、ここを数字で押さえるなら、「税率の壁」への現実的な対抗策になり得ます。

4)“働き損”の正体は「税率」だけじゃない
最後に大事な視点を一つ。高所得帯ほど、手取りを削るのは税率だけではありません。
「増えた分が、税・社保・将来不安に吸われていく」感覚が、働き損を強くします。だから防衛策は、
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いまの税率が高い現役期に控除を取りに行く(iDeCo等)
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運用益課税を減らす(NISA等)
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将来の支出(教育費・住宅・老後)を数字で見える化し、過不足を埋める(必要なら不動産も含む)
という“複合設計”が効きます。
年収1,200万円を超えたら、節税は「小技」ではなく「設計」になります。
まずは 自分の課税所得が9,000,000円の壁に近いのか、そして 税・社保を含めた実効負担率がどれくらいかを把握するところから始めてください。数字が見えた瞬間、「働き損」は“対策可能な課題”に変わります。
